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18章 シロネコの陰謀
『キ―ンコーンカーンコーン』
「さて、どうやって頑固親父を説得するかな」
とりあえずお父さんが帰って来るまでに考える事はひとつ! どうやってあの頑固親父を説得するか。
ずっとお姉ちゃんと考えてたけど、お姉ちゃんと考えてるとどうも話が進まないのよ。
そんなうちにお父さんが帰って来る日になったし。
「鈴実、今日こそは説得するぞって顔してるね」
「うん。今日こそあの頑固親父を説得するために対策を考えてたところ。じゃあね、綾香」
「がんばってねー」
教室をでると女子が固まってて、通る隙間がないんだけど。邪魔ね。
「ねえ、最近近くの高校にかっこいい人が入ったんだって」
近くの高校って言ったらお姉ちゃんの通ってる高校ね。ま、いいや。そんな事より説得の事。
「どんな感じなの、珠梨」
「銀髪の人。それでスポーツも勉強も両方優秀なんだって!」
今、銀髪って言った? それって…いや、…人違いね。髪の毛を染めればみんなそうなるわよ。
何あたしはあんなやつの、敵のことを考えちゃったんだか。
「ルックスよし、スポーツ、勉強もできるとなれば年下も同学年にもうけるんじゃない?」
「うん。隣の家の莢香さんも言ってたんだ。莢香さんもね、メロメロなの! いままではどんな男も全然だったのに」
「莢香さんが? そんなにすごいんだ」
莢香さんってお姉ちゃんの友達で、眼鏡をかけてるみつあみの……男は苦手だってきくけど。
「うん! お姉ちゃんに隠し撮りした写真をみせてもらったんだ。私もいいかなーって思う! 大輔くんほどじゃないけどね」
隠し撮りって、ストーカー行為にはいるんじゃない? けど莢香さんはするタイプじゃないのね、やっぱり。
けど、隠し撮りするほど入れ込んでるの? 珠梨のお姉さん。さすが姉妹。
惚れたらとことんやるっていうのは伊達じゃない。珠梨の双子の姉の岬は普通なんだけど。
「私も見たーい!」
「じゃあ今日うちに寄ってお姉ちゃんに写真みせてもらう?」
「うん!」
……あ、帰らなきゃ。こんなことよりも、頑固親父の説得をどうやってするか考えなきゃ。
それにそんなに格好良かったかしら、あいつ。いや、確定したわけじゃないんだから。
別に何がうまいとかどうとかより問題は中身じゃないの? ま、あたしにはどうだって良いの。
そう、あんなやつのことなんてどうでも良い。それより頑固親父の説得、どうするかな。
この後この2つの事の繰り返しで全然説得の案がでてこなかった。
父親の説得を考えるとちらりと頭があいつのことを浮かべていた。考えまいと、そう思うほど強く。
「ただいまー」
家に帰ってまず目の前にはいってきたのは頑固親父。もしかして帰って早々説教じゃないでしょうね!?
「鞄を自分の部屋に置いてきたら私の部屋で待っていなさい」
部屋?いままでお父さんの部屋に行く事なんてなかったけど。それより、相変わらず頑固そう。
年をとるにつれて厳しさが増してるわ。おじいちゃんくらいになったら少しは柔らかくなるのかしら。
鞄を自分の部屋に置いてきてお父さんの部屋にはいるとお姉ちゃんがいた。
「あら、お姉ちゃんもお父さんに?」
「そう。帰って早々説教をする気じゃないかって思ったけど」
「いままでお父さんの部屋に呼ばれた事なんてなかったのに」
そう言ってたらお父さんが来た。
「単刀直入に言う。この2つをお前達に託す。これは霊を引き寄せるものだ。扱い1つで身を滅ぼしかねん」
そう言ってお父さんに渡されたもの。私は笛。
お姉ちゃんは待ち針? 待ち針が鍵くらいの大きさになってる。けど先はとがってない。
例えるなら、丸をかいて長方形とくっつけた、小学生低学年でも簡単にかけるようなもの。
「鈴実に託すは陽を呼ぶ笛、円陽。雪菜に渡した鍵は陰を開く鍵、陰開と言うものだ」
「え、ちょっとお父さん? なんでこんなもの」
お姉ちゃんの言いようはもっとも。この親は、説明をよくはぶくというか。
まあ、長い説明きくなんてまっぴらごめん。でもまったく説明なしというのも困る。
説明は重要なところだけ。といっても全てがそうだと覚えきれないけど。
父親なんだから、そういうところくらい踏まえておいて欲しいわ。
なんでもはいはいと理解して吸収できるお母さんとは違うんだから。
「この際言っておく。うちには封印してあるものがある。それらは封ずるもの。
封印されているものは私も知らないが。光と闇、正反対であって必ずあるもの。
それが交わる事がなければ世界は崩れると言われるが。まあ言ったところでわからんだろう。
月赤く空晴れるのならば闇、月青く陰るのならば光を呼べ」
ええ? 月が青くって、有り得ないでしょ。そう口を開きかけるのをなんとか抑える。
「以上。では自分の部屋に戻りなさい」
お父さんの部屋からでて、扉を閉めた。というか、追い出されたに近い。
「あー、疲れた」
「あたしも。お父さんがいるだけでも威圧されるのに今日はいままでのどんな時より疲れた」
「ニャー?」
あ、眞流菜。そういえば朝、黒猫が眞流菜のことで……そんな事ないわよね。
眞流菜は賢い猫。それだけよ。
「ご飯ができたわよー」
もう6時過ぎ。今日の晩ご飯はやっぱり三色ご飯? お母さんの得意なものだし。
「そういえば、今の月はどうなのかしら?」
「いつもと変わらないんじゃない? それに月が赤くって、月食か日食でみた事はあるけど青くはならないじゃない」
「そうよねー。ま、とりあえず見るだけ見ましょ。これから日課になりそうだし、月光浴もいいんじゃない」
「そうね」
月の光は嫌いじゃないから。闇も本来恐れるべきものじゃない。
外は寒いから、コートをとって来ようと自分の部屋に戻ると置いていた笛がない。
落ちた? 机の端っこに置いてたんだけど。
あ、あった。じゅうたんの上に転がっている。拾ってコートを探すけど、ない。まさか泥棒!?
霊には有効な仕掛けはしてあるけど、泥棒相手には当然効くはずもない。
けど変ね。泥棒ならお金や金品を盗むけど、コートとか衣類は取らないでしょ。
マニアなんているわけないし、あたしの衣類はブランドものってわけじゃない。
「……このジャケットだけ残ってる?」
唯一クローゼットにしまった衣類の中で、あのジャケットだけあった。
いつか会ったら返そうと思ってるんだけど、いきなり現れてまたいなくなるから返せないでいる。
これしか残ってないから、これを使うしかないか。風邪をひきたくないし。
変に意地はってたら誤解……と、それは良いわ。この町も物騒になってきてるってことね。
『ガチャ』
「ねぇ。私の部屋の衣類とか全部なくなってるんだけど。鈴実は?」
「えっ、お姉ちゃんも? あたしもこれ以外は……」
そう言ってあたしが羽織ったジャケットを指差すと、お姉ちゃんは八の字に眉をひそめた。
「困ったわね。制服もなくなってるし。明日と明後日は土日だけど、部活があるし。やっぱ泥棒?」
「だけど変よ。衣類だけ盗むなんて」
うんうん、とお姉ちゃんも首を縦に振った。
「風邪はひきたくないけど、鈴実を1人行かせるのもねぇ。家から月が眺めれたらいいけど、見えない位置にあるから面倒よね」
「あたし一人で見に行ってくる。まだ7時だし、通行人もたくさんいるでしょ」
「じゃあ早く帰って来るのよ。私はお母さんとお父さんにも、なくなってるものはないか聞いてくるから」
「うん」
行って来るだけ無駄かもしれないけど。何だか嫌な予感がする。
あたしは笛、円陽を持って外に出た。
「やっぱり外は寒いわ……」
まだ季節は冬。外の風は冷たい。手袋もなくなっちゃったから手は悴むし。マフラーもない。
さっきから家に帰っている人達も寒そう。完全防備のあの人たちですら、ああも身震いしてる。
ポケットに手をいれると何か指に当たった。有ったのは、霊を武器化する装置。
あの時からずっとこのジャケットにいれっぱなしにしてたのね。
ま、いいわ。邪魔にならないから。
「ここなら、月がよく見えるわね。そんなに時間もかからないし」
空を見上げると月は普通じゃなかった。……ちょっとだけど、青く見えてる?
瞬きをしたけど、月は青くみえる。空は曇ってる。でもあれは陰りだっていうの?
ただ偶然雲がかかっただけかもしれない。
まわりの人をみてみるけど、月を眺めてる人はいない。皆が皆見えるってわけじゃないのね。
この笛を吹かないといけないって事? ……ここで吹くのってかなり恥ずかしいんだけど。
家に帰ってからにしよう。それに……この笛どうやって吹けばいいのか聞いてないわよ、お父さん!
重要な事を言うのを忘れないでよ。どこか抜けてるわ。
走って住宅街まで帰っていく途中に公園を過ぎた時、公園の時計をみると7時半。
家が見えるとこまで帰って来ると、家から霊の気配が漂っていた。しかもたくさん。……どういうこと?
「鈴実!」
「お姉ちゃん! どうしたの、家から幽霊の気配がきてるんだけど」
上着を着てないから寒そうなお姉ちゃん。風邪をひかないといいんだけど。
「それがね、クシュン……あ、もう風邪ひいちゃった」
遅かったのね……くしゃみがひどくなって、ろくに喋れないみたい。
「封印が解かれた。厄介どころではなくなったな」
「そうみたいですね。また封印する事はできますか?」
「方法はあるのだが、成功する確率は低い。私達の手には負えないものだろう」
お父さん、何が封印されてるのか本当は知ってるんじゃないの?
それとさっきから、幽霊の気配と違う気配もあるんだけど、何かしら?
それとさっきからニャーニャーって猫の鳴き声がする。
うるさいけど、猫の姿はみあたらない。猫の幽霊だって見あたらないし。
『グオンッ!』
大きな風が吹いた。お母さんとお姉ちゃん、最後にお父さんが吹っ飛ばされた。
「え……?」
「ここは、どこだ?」
いつの間にか、私の家の前に女の人が。
あーっ! 着てるもの、お姉ちゃんのじゃない! でも、この人は記憶喪失っぽい?
その人に白い猫、眞流菜が近寄ってる。危ないって! 普通の人間じゃないのよ、その人は!
「お久しぶりです、華科様」
眞流菜? ……そんな、黒猫が言ってた事は本当だったの? じゃあ、封印を解いたのは眞流菜って事!
愕然とするあたしを尻目に、白猫は喉をごろごろと鳴らした。
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